机に向かい、何かを書き記しているコナン。カリカリと鉛筆の黒鉛が削れる音が響く。
ときどき唸るような溜息をつき、後頭部を掻く。眼鏡をずり上げて目頭を挟むように抑えたりもする。
「んー……コナン、お前何やってんだ?」
二段ベッドの上、ルームメイトのマルソーが灯りに気付いてモソモソと布団から顔を出した。
王立魔法学院は全寮制だ。中等部は相部屋で3年間を過ごし、高等部になると一人部屋になる。
かといって別に高等部の方が格段に部屋数が多い訳でもない。中等部卒業時に挫折して学院を出る者も多いのだ。
コナンは振り返り、眠そうなマルソーを見上げる。
「あ……ごめん、起こしちゃった?」
「また勉強してるのか? 勉強もほどほどにしておけよ。健全な肉体じゃないと、魔法は使いこなせないんだからな」
どこかで聞いたようなセリフに苦笑するコナン。コナンの執筆を勉強と勘違いしたマルソーは欠伸をしてまた布団へと潜りこんだ。
それを確認するとコナンはひとつ溜息をついてまた机へと向かう。こめかみに一筋流れる汗。
「……よかった、気付かれたらどうしようかと思った」
机の上に乱雑に積まれた幾つかの本とノート。本には『恋愛のススメ』やら『好きな人を振り向かせる100の方法』といったタイトルが並び、ノートにはピリカやシモンといった単語が確認できる。
コナンはピリカとの約束通り、ピリカとシモンをくっつける方法を模索しているのだった。
「………なんで僕はピリカとシモン先輩をくっつけようとしてるんだろ」
誰にも聴こえないように、小さく呟くコナン。コナンは明るく元気で、実は優しいピリカの事が好きだった。
「ピリカはシモン先輩が自分に無いモノを持ってるから好きだっていうけどさ……それは僕だって同じなんだよ?」
呟いて言葉にするうちに、なんだか自分が酷く惨めになっていくような気がして、コナンはそれ以上口にするのをやめた。
一度彼女の為に尽くすと決めたのなら、しっかりとサポートしたい。自分の手でピリカを幸せにするんだ。
そう心のうちで呟き、コナンは両頬を軽く叩いて気合を入れた。
しばらくノートに作戦を書いては斜線で消し、書いては斜線で消しといった行動を繰り返した後、コナンは実感する。
「やっぱり……データが足りないや」
コナンはピリカの事を知ってても、シモンの事はよく知らなかった。シモンの好きな物や趣味がわかればその方面からのアプローチも出来るが、コナンはそれを知らない。
「ピリカに天候魔法を使ってもらえれば色々アクシデントから救う系のアプローチも出来るけど……ピリカはあの件で天候魔法は使いたがらないし、シモン先輩も大抵の事故は自力で解決しそうだしなぁ……」
頭の後ろで腕を組み、鼻の下で鉛筆を挟む。そのまま椅子の背へともたれかかるとミシリと木の椅子が悲鳴を上げた。
ノートには他にもコナンが悪役、ピリカが善玉となりシモンを助けるといった寸劇風の作戦が書かれていたが、前述の理由に加えてコナンの悪役としての説得力やピリカの演技力などの問題からも実現は到底不可能だろう。
そんな無茶な作戦を考えだしてしまうほど、今のコナンは煮詰まっていた。
しばらくぼんやりと薄暗い天井を見つめていたコナンは、観念したように身体を戻し机の引き出しを開ける。
「知らないのなら知れば良い、か……」
そこには一通の、差出人としてシモン=ローゼンクロイツの名が刻まれた白い封筒があった。
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