日騎〜ライディング・サン〜

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12:フライハイ


「唸りなさい、私の水は世界の水!!」
 セイカの手が水色に光ると、丘を滑り降りるセンドのボードの底が凍りつく。
 凍ったことで更に滑りやすくなったボードは、芝の上を今や滑り「落ち」ていた。
「うおおおおっ!!!」
 雄叫びを上げながら滑降するセンド。
 その姿に芸術性は無い。
「なんだアレは……芸術点、ほとんどないだろう」
「芸術性は無いが、速さはあるんだよね」
「あ、コナン殿!!」
 試技を終えたコナンがいつものようにニコニコ笑いながら立っていた。
「ああいうタイプはストレートって言ってね。タイムを純粋に競う事で、点数を稼ぐんだよ」
 日騎に求められるのは試技での芸術性だけではない。
 タイムでもポイントが加算されるのだ。
「全てのバンクを綺麗に飛んで、出来るだけ早くゴールできるか……どっちかを追求するか、どっちも取るか。この選択肢が日騎をまた面白くしているんだ」
「なるほど、ストレート、か」
 爆走し、全出場者中1位のタイムでゴールするセンド。
 すぐに点数が通告される。
「暫定で8位……ギリギリ入賞ラインですわね。相変わらず美しくない滑りだこと」
 辟易し、溜息を漏らすラフォーレ。
 美しさを追求する彼女には、センドの滑りは到底受け入れられるものではないのだ。
「アンネ選手、出番です。準備してください」
 係員に呼ばれ、スケボーを手に歩き出すアンネとジェット。
「おい、使う魔法は昨日打ち合わせたとおり、浮遊魔法で良いな?」
 ジェットの言葉に、アンネは軽く首を横に振った。
「いや、予定変更だ」
「はぁ?」
「風を追い風にしてくれないか。ストレートスタイルの方が、多分私には合っている」
 風を真正面から受け、アンネのザラザラとした髪がなびく。
 魔法よりも剣術が得意なアンネからすれば、確かにタイムを極めた方が良いタイムが出るだろう。
「まあ、お前がそういうのなら、それでも良いけどさ」
 それを理解しているジェットは、困惑しながらも頷いてみせた。
「ありがとう。折角だし、風は自分で感じる方がいいからな」
 アンネの自然な笑顔に、ジェットは胸がドキリとする。
(「な、なんだってんだ、コイツ……」)
 スタート30秒前を報せるブザーが鳴る。
 ドギマギするジェットを置いて、スタート位置につくアンネ。
 スケボーを地に置き、踏みつける事で前輪を斜面から浮かせる。
「ジェット、どうした?」
「あ、ああ、すまん。輪廻の風よ、我が呼びかけに応えよ……」
 呪文を詠唱し、アンネを追い風の状態にするジェット。
「よし、それじゃ行ってくるか」
 アンネのこめかみに流れる一筋の汗。肩が微かに震える。
 それは怯えか、武者震いか。
 スケボーに両足を乗せ、アンネは空へ飛び出していく―――

「……負けた、か」
 掲示板を見つめるセンド。
 1位は彼の主セイカであり、急造コンビのコナンを押しのけて優勝を果たしていた。
 負けたのは彼自身だ。センドは視線を下げていく。
 2位にコナン、3位4位はバンディット兄弟。5位にジェット、6位にラフォーレ。
 7位にはバンディット兄弟のはみ出し者が入り、8位には……アンネの名が刻まれていた。
「ストレート勝負で負けるとはな」
「何言ってるのよ、わたくしの勝利も祝いなさいな!」
 勝者のミルクシャワーを浴びて上機嫌なセイカがセンドの足元に絡み付いてくる。
「ええ、おめでとうございます、セイカ様。セイカ様ならば当然です」
「なに、ポッと出の新人に負けたのを気にしてるの?」
 成長するようにとミルクをガブ飲みしつつ、セイカも少しマジメな顔で口を開く。
「あれはジェットの洞察力が素晴らしかったという点につきるわ。新人の能力を客観的に判断し、ストレートで挑ませた度胸。それが良かったのよ」
 セイカと同じ事を、バンディット兄弟や仲間のコナンですら言ってジェットを褒め称えていた。
「……そう、でしょうか。私には、あの新人が近いうちに恐ろしい脅威になりえると思うのですが」
 だが、センドの目には焼きついていたのだ。
 技術もなく、ただ楽しそうに太陽を背負って跳ぶ、美しいアンネの姿が。

(了)


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