「ノワール先生に頼んで貰ってきましたわ。何に使うんだって詮索されて大変だったんですからね」
 公園のベンチ、やってきたアンジェリカはぶつくさ言いながらピリカの首に紫のチョーカーを巻かせる。
 ノワール先生とは、マジックアイテムを専門に研究している教師であり、同時にS組の担任だった。このチョーカーは装備者の魔力を抑える一種の封印である。
「感情を高ぶらせると暴走しちゃうとはね……」
 ベンチに腰かけ、コナンは誰よりも疲れた顔で溜息をついた。あのシェイナ魔法はよほどの大技だったのだろう。
「そ、その……ごめん」
 恥ずかしそうに顔を伏せるピリカ。コナンの顔を見ようともしない、なぜなら――
「別に良いよ。僕たち、友達じゃないか」
 コナンはそんな風に笑って簡単に全てを許してくれるのを知っているからだ。だから恥ずかしくて、目を合わせる事も出来なかった。
「友達……うん、そっか、友達、か」
 噛み締めるように、何度も友達と口に出す。コナンは複雑な想いを込めてその単語を使っていた事を、今のピリカは知っている。そんな想いを抑えていつも傍で笑っていてくれた事も。
 自分にとってかけがえのない人だという事を自覚したピリカは、照れ隠しで笑ってみせる。
「……ゴホン! カフェに出た被害はウチの家で弁償しておきますわ」
 咳払いをするアンジェリカに、コナンとピリカの頬が紅潮する。お互いに俯いて、気まずそうに頷く。
「そうそう、トンコウ様。トンコウ様はピリカのどこが好きなんですの?」
 意地悪そうな笑みを浮かべて訊ねるアンジェリカ。予想だにしていなかった質問に明らかにうろたえるコナン。
「そ、それは……」
「それを聞かないと、わたくしとしましても諦めきれないんですけれども? ピリカも、気になりますわよね?」
 アンジェリカがピリカに話を振る。ピリカもこくこくと首を縦に振る。
「うん。私ってそんなに良い子じゃないと思うし……どこか好きになれるところがあるのかなー、なんて」
「はぁ……わかったよ」
 諦めたように肩を落とすコナン。とつとつと語り出す。
「僕は未知の人類なシェイナ人のハーフだからさ、差別というか怖がられて友達が出来なかった。まあ、それで、わかるでしょ? ピリカが初めて裏表なく、対等に接してくれたんだ。確かにピリカは乱暴だし、頭も悪いし、一人で勝手に暴走するし――」
 ピリカの顔がどんどん険しいものになっていく。だが、次の一言で一瞬に柔らかいものになった。
「でもさ、そういうのも含めて僕はピリカを好きになったんだと思う、たぶん」
「こ、コナン……」
 ピリカは必死に顔を整えようとするが、にやけ笑いが止まらない。俯いたまま両頬に手を添えている。彼女にとって告白されたのは、これが初めての経験だった。
「……それなら、しょうがないですわね」
 はぁ、と溜息をついてお手上げのポーズを取るアンジェリカ。
「私がピリカを好きになった理由とおんなじなんですもの、ケチのひとつもつけられませんわ」
 富豪の娘として生まれたアンジェリカにとっても、対等に接してくれた初めての友達はピリカで、次はコナンだったのだ。
「……御覧なさい、夕焼けが紫がかってますわ」
 3人は空を見上げる。鮮やかな橙色の太陽の上、紫色に照り返された雲がたなびいていた。


 明日はハレルヤっ! 完
●あとがき
とりあえず、彼ら3人のお話はこれでお終いです。
青臭い恋の話をテーマに、途中からはアニメを意識した章分けを試みてみました。
うーん、書きたい事は書けたので満足なのですが……最初はもっとコメディにする予定だったんだけどなあ。
まだシモンとコナンの対決も済んでいませんし、シモンの兄弟とか色々ドタバタの要素も残ってます。
次回作では彼らの大活躍アクションとかもやりたいな、うん。
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