格闘家の服はなぜ空手着ばかりなのか。
 狩りも一区切りがつき、草むらに寝っ転がりながら俺は永遠ともいえる命題に思いを馳せた。
 駆け出しの格闘家だった頃は気にならなかった。だがいつからだろうか、自分以外の格闘家も皆同じ胴着を着ている事に気になり始めたのだ。
 抜けるような青空、横では戦士が聖晶霊術士にヒールをかけてもらっている。
「なあなあ、膝枕してくれよ」
「馬鹿言わない! 全く、頭の中まで筋肉なのねっ!」
 あ、馬鹿な事を言って平手打ちを食らった。
 実は俺は戦士と剣士の区別がついていない。俺も戦士と同じで頭まで筋肉が詰まっているんだろうか……想像すると気が滅入る。
「大丈夫ですか? 顔色がすぐれないようですが」
 反対側から穏やかな声がかけられた。首を巡らせると既に息を整え終えた魔晶霊術士が座って本を読んでいる。
 戦闘では補助魔法しか使っていなかったから回復が早いんだな。まあ、戦士が敵を挑発しておびき寄せないものだから仕方ないとこだが。
「いや、大丈夫だ。ちょっと考え事をしていただけさ」
「考え事、ですか」
 眼鏡の弦を摘んで持ち上げ、興味ありげに見下ろしてくる魔晶霊術士。
 端正で知的な顔に見下ろされると、本当に見下されているような気がして俺は原っぱから跳ね起きた。
 あぐらをかいて座り込み、自分と魔晶霊術士が対等な関係になった事を確認するとなんだか安心した。
 魔晶霊術士なら理由を知っているのかも知れないな、聞いてみよう。
「ああ、考え事だ。格闘家の胴装備はなぜ空手着ばかりなのかなー、って」
「それは……」
 魔晶霊術士は途端に口をつぐむ。
「やっぱりお前でも知らないのか。知らない事って多いよな」
「いえ、そんな事はありません。私は『格闘家の胴装備が空手着ばかりな理由を知っています』し、『複数のロディさんが存在している理由も知っています』」
 やっぱりどこか青ざめた面持ちで、おかしな事を言う魔晶霊術士。俺は思わず首を捻る。
 ロディさんって、モルルの学者さんだよな? 確かにロディさんに似ている人はたまに見かけるけど、挨拶してもなんも答えてくれなかったから他人の空似なんだと思ってたけど。
 それにもしロディさんが複数いるとしても、空手着しかない理由とロディさんが複数いる理由がイコールで結ばれるとは到底思えない。
「??? お前、一体何を言ってんだ?」
 ストレートな質問に、魔晶霊術士は数度首を横に振った。何か顔に纏わりつく虫を追い払うような仕草。
「失礼しました。どうも私も疲れているみたいですね」
 取り繕うように笑う魔晶霊術士。
「そして、空手着しかない訳ではありませんよ。今、貴方はただ空手着以外の服を着たくなくなっているだけです」
「……そんなモンなのか?」
「そんなものですよ。貴方、その空手着は着心地が良いと思っている……違いますか? それとも他の服が着たいのですか?」
 そして俺の紫色の胴着を指差してくる。指差された箇所を見るように胸元に視線を移す。
 確かに、この胴着は動きやすくて実に馴染む。他に服を着たいと思っている訳ではないのだ。
 ん、待てよ? こんな事を聞かれたという事はひょっとすると、魔晶霊術士には俺が胴着ではなく他の服を着てお洒落したいと思っているのだと誤解されたかも知れない。
 それは困る。決して色恋沙汰に興味がない訳ではないが、俺は己の拳一つで生きていくと誓っている。だから軽く笑い飛ばそうとしたのだが――
「そう、だな。ただみんな同じような空手着を着ているからちょっと気になってさ、ははは……」
「その考えは危険です。すぐにでも止めたほうが良い」
 やけに真剣な顔で注意されてしまった。
 どうしたのだろう、さっきから魔晶霊術士の様子がおかしい。開いていた本の内容もロクに頭へ入っていないようだ、すぐに栞を挟んで本を閉じてしまう。
「下手の考え休むに似たり、と云いますよ。そういった根源的な問答は私みたいなものに任せた方が良いです。貴方は貴方の、拳の道を極めるのがよろしいかと」
「あ、ああ……そうするよ、ありがとな」
 いつになく感情の篭った言葉に押されて、肯定の言葉を返してしまう。
 不意に背中を叩かれる。後ろを向く、戦士だった。斧を肩に担いで戦闘準備完了といった風だ。
「いつまで座ってんだよ二人とも。格闘家もしっかり短頸と息吹頼むぜ!」
「というかね戦士! アンタがしっかり敵を捕まえとけばこっちも攻撃の晶霊術を使える訳! しっかりやってよ、アンタが倒れたら私が困るんだからね!」
 キンキン声にたまらないといった様子で耳を防ぐ戦士。なんだかんだで戦士と聖晶霊術士は良いコンビだな。
「さあ、行きましょう。そろそろ私達が突如強くなるはずですから」
 魔晶霊術士は立ち上がると、ローブを叩いて尻についた雑草を払い落とす。インテリっぽい、どこか遠まわしな言い草だ。
「そうだな、いっちょ修行再開としますか!」
 胡坐の状態から手を使わずにジャンプして立ち、指の骨を鳴らす。
 既に頭の中に先程まであった疑問はない。細かい事を考えている暇があったら強くなろう。

 でも、俺は強くなってどうするつもりなんだろう? どうして己の拳一つで生きていくと誓ったんだっけ?

 余計に疑問が増えた気がする。
「我々は世界という盤面に乗せられたチェスの駒にしか過ぎない……人は、知らない方が良い事もありますから」
 魔晶霊術士の呟きが俺の心を抉るような気がして、俺は知らずに胴着の上から心臓を押さえていた。
ゲームのキャラクターが自分の虚構の存在であると気付いた場合、どのような行動を取るのでしょうか。
創造主に反抗をするでしょうか、それとも失意や絶望のままに一生を終えるのでしょうか。
結局、人それぞれなんだと思いますけれど。
ただ、MMOの二次創作小説としてはちょいと問題ありますねコレ。
なんというか、無粋だ。もう二度とこれ系はやらないようにします、はい。

そしてスターオーシャン3は凄い展開だったとあまり脈絡のない感想をあとがきとさせていただきます(笑
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